救世主にはなれない新興国経済

救世主にはなれない新興国経済

この4年間、中国に代表されるアジアと中南米の新興国が世界の成長エンジンの役割を果たしてきた。しかし、先進経済圏の問題の解決に新興経済圏がこれからも貢献してくれるだろうと希望している人たちは失望を味わうことになりそうだ。

 

欧米当局は景気の二番底とデフレを回避する戦いを余儀なくされている。一方、新興諸国は、景気の過熱、インフレの高騰という先進諸国とは正反対の問題に直面している。過去1年半、中国、インド、トルコを含む多くの新興諸国が、利上げ、預金準備率の引き上げ、物価統制など引き締め策を発表した。

 

新興諸国のコストインフレはこの2年半で最低水準にあり(HSBC調査)、引き締め策は経済成長に影を落としているようだ。 HSBCとマークイットがまとめた最近の購買担当者指数によると、新興諸国の成長率はこの2年間で最低水準にある。成長の勢いはすべての地域で低下している。その背景には、中国、ブラジル、ロシアにおける製造業の生産増加率の低下と輸出受注の減少がある。

 

最大の問題は、最も重要な新興経済である中国の今後の景気動向だ。中国はついに日本を追い抜き、世界2位の経済大国として躍り出た。しかし、中国当局は深刻な問題と取り組まざるを得ない状況にある。その問題とは、@前年比15%から16%という高い伸びが続く信用拡大、A膨張が続く地方政府の債務残高(実際には公式発表の10兆7000億元= 1兆7000億ドル=より多い可能性がある)、Bデフォルトの流れが拡大すれば不良債権比率が12%に達するリスク(ムーディーズ予測)を抱える銀行貸付だ。

 

中国が直面するもう1つの大きな問題は、外国為替政策。人民元切り上げの海外からの圧力は強まる一方だ。ハーバード大学のダニ・ロドリック教授は、人民元が20%切り上がると中国のGDP成長率が2ポイント下がると予測している。

 

先進諸国と比較すると、新興諸国が経済成長率で優位に立っていることは事実だが、新興経済圏が米国や欧州に代わる役割を担うことは期待できない。それは、新興諸国がそれぞれの弱点を抱えているからだ。

 

7月初めからの株価の大幅下落は止まったが、これほど不安定な市場では、分散投資を心がける投資家の足も株式市場からは遠のく。株式市場の不安定な状態が長期化すれば、実質経済に悪影響を及ぼし始める可能性がある。株式市場と実体経済の間に生まれる負の連鎖の最も顕著なケースは、株価の大幅下落が製造業者の株式市場への信頼を損ねてしまうことだ。7月初めに始まった今回の株式の大量売却では、米国の地区連銀が調べた消費者信頼度や製造業景気動向(景気後退の兆しが真っ先に現われることが多い先行指標)の数字がよくなかったことが引き金となった。

 

このような環境下で資本形成メカニズムがどこまで活発になるかは予測がつかない。先行指標からは明るい兆しは読み取れない。

 

新規公開株(IPO)市場は、新興の高成長企業には主要な資本調達の場である。 2011年前半には多くのIPO案件が取り止めとなり、夏休み明けの欧州TPO市場がいつ再開するかは市場関係者さえ予測がつかないようだった。

 

米国市場では、伝統的に市場が閑散となる8月に4件のIPOが完了したが、一方で、17件のIPOが延期または中止となり、2008年12月以来最悪の記録となった。株式市場に資金の還流が復活したものの、その勢いは弱く、投資家の株式選好の急回復は期待できそうにない。

 

同じ頃、債券市場は株式市場より不安定な動きをしてきた。欧州では、スペインやイタリア、それに国際的な金融支援を受けている財政危機の各国の10年国債指標銘柄の価格が激しい変動を繰り返した。シティグループのアナリストは8月末に銀行の優先債と投資適格債券のスプレッドは過去最大幅に近い水準で推移していると指摘した。短期金融市場は緊張が張りつめていた。CDS(クレジットデフォルトスワップ)市場では、欧州の金融機関優先債のデフォルト保証コストを示す指数が8月末に記録的水準に達した。その代表的な指数であるiTraxx SeniorFinancials指数(対象は欧州の25の銀行・保険会社の優先債銘柄)でさえも、過去7年に合わせて60取引日しか経験したことがない(そのほとんどは2008年末から2009年初めにかけての世界金融危機の最悪期だった)最大幅で推移した。

 

クレジット市場は景気後退をすでに織り込み済みなのだろうか。そうであれば、行き過ぎではないか。低く抑えられたままの政策金利とCDSスプレッドの拡大が相まって、CDS市場への資金還流の復活はあるのだろうか。これらの疑問の答えはやがてわかる。

 

欧州では、金融株に対する空売り規制が再導入される一方、欧州中央銀行(ECB)による大量買い支えがイタリア国債とスペイン国債のドイツ国債利回りとのスプレッドが制御不能な水準に拡大するのを辛うじて防いでいる。つまり、欧州にはもはや自由な資本市場は存在しない。

 

エコノミストたちは、インフレ率低下の家計へのプラス効果に期待している。しかし、企業の反応は違う。世界最大の鉱業会社BHPビリトンの最高経営責任者(CEO)マリウス・クロッパーズ氏は、主要なコモディティの新規供給を阻害する要因をいくつか挙げている。 BHPが8月下旬に開いた決算説明会で、クロッパーズ氏は、その例として、コスト高騰と並んで、資金調達の困難さにふれた。安定した財務基盤があり幅広い分野で開発生産に携わる鉱業グループでさえ資金調達が思うようにできないというのだ。

日経平均は昨日までの上昇によってテクニカルポイントに近づいている。一目均衡表の雲は8700-8750円辺りに位置しており、来週にはねじれを起こす。強弱感は対立しやすいところであるが、これを捉えてくるようだと、年末高への期待感が一層高まることになりそうだ。週末要因から利益確定の流れに向かいやすいが、今回の日米欧の世界主要6中銀によるドル資金供給での協調策によって、リスク資産への再投資の動きも次第に強まるとみておきたい。ヘッジファンドの決算に絡んだ売りも一巡しているとみられ、利益確定で上げ一服の局面では押し目狙いを意識したいところ。為替相場(FX)では一段のドル高も予想される。